スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

金明秀「リスク社会における新たな運動課題としての《朝鮮学校無償化除外》問題」について

1.はじめに

以下金明秀氏の「リスク社会における新たな運動課題としての《朝鮮学校無償化除外》問題」を検討する。

この論考についてはすでにkscykscy氏が的確な批判を加えておられ、本質的な問題はそこに出ていると思われるので、ここでは、主に表現行為の側面に注意して、金明秀氏の論考(以下金明秀論考と略称する)を検討していく。

結論から言うと、金明秀論考に戦略性などあって無いようなものに等しいのだが、どうしてそう言えるか順に説明していく。

なおkscykscy氏と金明秀氏との間のその後の議論の展開については抗議を参照。



2.そもそも戦略性を維持できるかあやしい

金明秀氏はまず「「普通の人々」は、危険の存在を暴き立てるような行動(例えば原子力発電反対デモに参加するとか)をとることで一時的に「避雷針」として敵意の対象となるだけだが、行動とは無関係に属性によって恒常的に「避雷針」の役割を押し付けられる人々がいる」とし、そのような人々を「他者」とする。

そして「スケープゴートになりやすい「他者」の例として「ユダヤ人、黒人、女性、難民、異端者、共産主義者など」を挙げる」議論を紹介した上で「日本では、「朝鮮人」が筆頭に加わることになろう」と述べている。

さらに「「他者」をリスクそのものとみなす非合理的な観念は、残念なことに、こうした一部の狂信的な政治思潮の保持者だけに流布しているものではない。朝鮮学校「無償化」除外問題をめぐって改めて明らかになったことは、日本政府こそが、在日朝鮮人を再生産するための教育機関を「リスク」としかみなしていないという事実であった」と述べている。

そして金明秀氏は「リスク・コミュニケーション」を次のように導入する。

「「他者」は、自分自身を「リスク」とする屈辱的な役割をひとまず引き受けた上で、そのリスクは不安に思う必要がないほど低く、そもそもリスクという役割を付与することが間違っているのだと多数派を説得しなければならない。これが「他者」にとってのリスク・コミュニケーションである。」

こう定義した上で金明秀氏は、「リスク・コミュニケーションを実践する場合のヒント」として「朝鮮学校の存在がどのように日本の役に立っているか」を論じていくのである。

ここからが本題である。引用文中の非合理的な言表を「ひとまず引き受け」という点に注目しよう。「ひとまず引き受け」ようということは<ひとまず肯定しよう>ということに等しい。だが当該言表を肯定するということは、行為遂行的には、被害をうける者自身がわざわざ、当該言表行為を遂行する主体に対して、(その行為遂行主体が)当該言表行為遂行の権利を所有していることを肯定(=承認)することを意味する。

だから「「あなたたちの役に立っているのでいじめないでください」とでもいわんばかりのリスク・コミュニケーション戦略」は、戦略としてのいわばメタ論理性が押しつぶされて、実態としては、次のようなコミュニケーションに帰結すると考えられる。

<あなたたちに一方的にいじめられるという役割の他にも役に立っている面があるんです。だからあまりいじめ過ぎないでください。他の役割がこなせなくなりますから。>

非合理な言表を行う権利が(被害をうける者自身からわざわざ)相手に付与されていて、かつ(被害をうける者が)「ひとまず引き受け」た役割の解除が客観的に保障されていない以上、このようなコミュニケーションになるのは目に見えている。「あなたたちの役に立っているのでいじめないでください。」「ほんとだ。役に立ってるんだね。もういじめるのやめるね❤」となるわけないだろう。

要するに金明秀氏は、実際のコミュニケーションにおいては、相手の言表内容に対する肯定と相手の言表行為に対する肯定の区別を都合よく維持しうるような、メタ論理(=戦略)的肯定の立場など保障されていないということ自体がわかっていない(あるいはこの問題のリスクを著しく過小評価している)。大学の講義では壇上(メタ論理)から学生の理性(論理)に訴えて「多数派を説得」できるかもしれない。だが社会はそういう風にできていない。<それは間違っている>と言わないで「ひとまず引き受け」てどうするのか。「ひとまず引き受け」たら最後二度とおりられないのがいじめの現実だと認識する方が、はるかに合理的なリスク認識というべきである。



3.そもそも戦略を考えているかあやしい

とはいえ表現行為に注目した場合のこの論考の核心は上の論点にあるのではなく次の点にあると思われる。すなわち、一方で、日本にとって「他者」在日朝鮮人そのものがリスクであるという信念が「馬鹿げたもの」であり「ナンセンス」であると正しく認識しているにもかかわらず、他方で、朝鮮人にとってこそ侵略と植民地支配を行う日本が大きなリスクであったし、それを反省しない日本は今なお危険であるという歴史的事実に依拠した、客観的かつ主体的危険認識が(論考中に)まったく現れてこないことそれ自体である。

<ⅩにとってYは危険である>という認識が間違っていたとしても、それにひきずられて<YにとってⅩは危険である>という認識も却下されるということにはならないのだが、金明秀氏の表現行為の<面白い>ところは、そういう逆転した関係認識が独自に成立する可能性を行為遂行的に忘却させる効果をもっている点にある(以前類似の問題を指摘した)。歴史的な権力関係や支配服従関係の<自然><永遠>視の下で、特定の関係認識が成立している場合は、それを逆転させた関係認識が成立する可能性を、あらかじめフェイドアウトさせてしまう表現行為が何の「役に立つ」かということは自明である。

要するにこの論考は、在日朝鮮人に対して危険(リスク)を主体的にとらえ返すいとまを与えないで、論理的にいわば受動的防衛姿勢をとらされたままの在日朝鮮人に対して直接「リスク・コミュニケーション」を差し出すという形態をとって記述されている。論考の説得性の強度もこの(ソフトな口調とは裏腹の)強迫的立論構成によって同時に調達されている。換言すればこの論考は、そのまま出せば単に無謀な「リスク・コミュニケーション」を、朝鮮人の主体性を首尾よく忘れさせる立論構成という<フィルター>を通すことで、届く人には届いてしまうように記述されているのである。

だから金明秀論考の本質は、朝鮮人の運動戦略を説いているのに、朝鮮人の立場から危険をとらえかえす視点がない、という点にある。ずっと暴力を被って大変ね、でも時代はリスク社会なんです、とさらっとぶって、「民族運動」に関心のある朝鮮人が「運動戦略」を「ああ、そうですね」と変えるだろうと、本気で金明秀氏が思っていたのだとすれば、「民族運動」も随分となめられたものである。危険を朝鮮人の立場からとらえかえすと金明秀論考はどうみえるかという点に最後に少しふれておこう。



4.疑似的主体性と疑似対立の供給

丸山真男によれば「B・ラッセルはかつて、中国文化にたいするヨーロッパ文化の優越は、ダンテ、シェイクスピア、ゲーテが孔子、老子にたいして勝を占めたという事実に基づくのではなく、むしろ、平均的にいって、一人のヨーロッパ人が、一人の中国人を殺すのは、その逆の場合よりも容易だという、はるかにブルータルな事実に基づくのだ、と辛らつな言を吐いた」という(『日本の思想』27-8頁)。

これを誰が言ったかはどうでもいいのだが、「ブルータルな事実」は身も蓋もない真である。つまり次のように言うべきである。

在日朝鮮人の生活において、現在なお、朝鮮文化が日本文化に圧倒されており、朝鮮学校の運営すらますますままならなくなっているという現実は、日本文化が朝鮮文化に勝を占めたという事実に基づくのではない。そうではなく、むしろ、平均的にいって、一人の日本人が、一人の朝鮮人を殺すのは、その逆の場合よりも容易であったという、はるかにブルータルな事実に基づいており、そのようなブルータルな事実の集積の結果形成された歴史的構造が解体されないまま、戦後日本がその遺制の上に構築されている歴史的現実に基づくのだ、と。

この「ブルータルな事実」の蓄積に基づく客観的リスク認識からすれば、金明秀氏のいう「在日コリアンのリスク・コミュニケーション」はまさに「危険に曝されても、合理的なリスク意識を形成するとはかぎらず、むしろ不安にかられて非合理的な推論に逃げようと」した結果の疑似的主体性(の定立)だと考えられる。したがってまた、氏が論考中で暗に示唆している「祖国志向の強い在日コリアン」対そうでない人々とでも言うべき対立構図は、歴史の中で実際に衝突している、日本社会の執拗な、幻想的かつ非合理的リスク認識と、朝鮮人の主体的な、客観的かつ合理的リスク認識の対立を隠蔽する、疑似対立であると考えられる。



5.おわりに

以上から金明秀論考の「戦略」がきわめて危ういものであることはだいたい明らかになったと考える。金明秀論考の客観的機能は、在日朝鮮人の自律的判断力の麻痺であり、在日朝鮮人の日本社会への従属を一層深化させる下地の形成であると考えられる。
スポンサーサイト
プロフィール

lmnopqrstu

Author:lmnopqrstu
lmnopqrstuと申します。
在日朝鮮人です。
2009年2月~9月のブログは
こちらです。

最新記事
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。